平成19年度 宮城県内の看護職による事業所・行政・大学のネットワーク構築とその成果に関する研究
主任研究者 | 宮城産業保健総合支援センター所長 | 安田 恒人 |
共同研究者 | 宮城産業保健総合支援センター相談員 | 福嶋 嘉子 |
宮城大学 看護学部 | 安齋 由貴子 | |
同 | 佐々木久美子 | |
同 | 佐藤 憲子 | |
同 | 高野 英恵 | |
久留米大学医学部看護学科 | 酒井 太一 |
1 研究の背景と目的
当センターは先行研究において、産業看護職の事業所への配置によって、生活習慣病予防対策が積極的に取り組まれ、かつ計画的な保健指導が行われることを明らかにした。しかし一方で、事業所の産業看護職の大半が単独配置されている現状にあり、今後も効果的な活動を展開するためには産業看護職に対する支援体制の構築が必要であることを報告した。
そこで、本研究では宮城県内の事業所に従事する産業看護職の支援体制を構築するために二つの調査を実施した。まず調査1では、産業看護職がどのような支援を必要としているのかを明らかにした。さらに、調査2では、調査1から得た知見に基づいて産業看護職によるネットワーク構築の取り組みを開始し、その評価を試みたので報告する。
2 対象と方法
調査1:産業看護職支援ニーズ調査
調査対象は、宮城産業保健総合支援センターが把握している県内の産業看護職254名とし、2007年9〜10月に自記式質問紙を郵送し、58件の回答を得た(回収率22.8%)。調査内容は、産業看護職の基本属性(職種、年齢、経験年数等)、従事業務の内容、産業保健実践能力の自己評価、必要としている支援(支援内容、支援者、支援手段の詳細等)とした。調査における倫理的配慮は、個人情報の厳重な管理、回答の可否による不利益が生じないことの保証、分析後のデータの破棄について調査票に同封した文書によって説明した。また、調査票の返送をもって同意を得たものとした。
調査2:産業看護職によるネットワーク構築の取り組みに関する質的評価
調査対象は、産業看護職によるネットワーク構築の取り組みの第一段階として企画された研修会に参加した産業看護職15名に、研修会終了後に自記式質問紙の記載を依頼し、14件の回答を得た(回収率93.3%)。調査内容は、産業看護職の基本属性(職種、年齢、経験年数等)、自由記載にてネットワークへの参加動機と感想などについて尋ねた。自由記載の内容は質的分析を行い、項目ごとに類似・共通したデータをまとめカテゴリー化した。なお、カテゴリー化においては本調査の目的・内容を熟知した共同研究者と共に行った。調査における倫理的配慮は、個人情報の厳重な管理、回答の可否による不利益が生じないことの保証、分析後のデータの破棄について調査票の表紙に記し説明した。また、調査票の提出をもって同意を得たものとした。
3 調査結果
調査1
調査対象の基本属性として、職種は看護師が67.3%、保健師が29.1%、准看護師が3.6%だった。年齢は50歳代以上が45.6%、40歳代が36.8%、30歳代以下が10.5%だった。産業看護職の経験年数は10年以上が68.5%、5−9年が16.7%、5年未満が14.8%だった。同一事業所内の産業看護職の配置状況は単独配置が56.4%だった。
産業看護職が必要としている支援は、助言・指導が94.5%、知識・情報の提供が96.5%だった。特に、助言・指導を受けたい相手では、同じ事業所・企業・グループ内の産業看護職が最も多く81.5%、次いで同じ事業所内の看護職以外の産業保健スタッフが75.0%、他の事業所の産業看護職が73.1%だった。また、知識・情報の入手先では、産業保健推進センター等の公的機関からの希望が最も多く84.5%、次いで研修・学会参加が81.0%だった。しかし、現状ではインターネットやメールマガジンの利用が最も多く74.1%、次いで研修・学会参加が72.4%であり、産業保健推進センター等の利用は60.3%で他の入手先(方法)に比べ最も少なかった。
調査2
調査対象の基本属性として、職種は看護師が8人、保健師が6人だった。年齢は平均46.6歳(最年長57歳、最年少28歳)だった。産業看護職の経験年数は15年以上が4人、10〜14年が5人、10年未満が5人だった。同一事業所内の産業看護職の配置状況は、単独配置が9人、二人配置が3人だった。
自由記載を質的に分析した結果、ネットワークへの参加動機では、「産業看護職の仲間をつくりたい」「情報収集及び情報交換をしたい」「資質向上のきっかけにしたい」「職務上の責務として参加した」の4つのカテゴリーが抽出された。また、実際にネットワークへ参加した感想では、「仲間づくりができそう」「情報収集及び情報交換ができて良かった」「やる気や元気などを得た」の3つのカテゴリーが抽出された。
4 考察
調査1では、産業看護職は、同職の経験年数が10年以上ある者が多かった。しかし、先行研究の結果と同様に単独配置が半数以上を占めており、所属事業所の内外を問わず、同じ産業看護職における助言・指導を求めていた。したがって、今後は産業看護職間で相互支援できるネットワークの構築が望ましいと考えられた。また、産業保健推進センター等の公的機関は情報・知識の入手先として期待されており、積極的に活用できる環境整備の必要性が示唆された。
調査2では、産業看護職によるネットワーク構築の取り組みの第一段階として企画された研修会への参加者は、いずれも1〜2名の少人数配置の職場に従事していた。
ネットワークへの参加動機としてあげられていた「産業看護職の仲間をつくりたい」「情報収集及び情報交換をしたい」に対して、参加後の感想として「仲間づくりができそう」「情報収集及び情報交換ができて良かった」とされており、ネットワーク参加によって産業看護職のニーズが充足される可能性が示唆された。また、交流を通じて「やる気や元気などを得た」といったメンタル面でのメリットが得られたこともあげられていた。
以上のことから、産業看護職によるネットワーク構築の取り組みは、産業看護職への支援として有効性があることが示唆された。ただし本調査の限界として、調査対象者数が少ないこと、選択バイアスの可能性があること(調査対象者はネットワーク構築に関心のある者だった。)、評価方法が質的な評価のみで数量的な評価は行っていないことなどがある。したがって、今後はネットワーク構築を推進しながら、その効果についてさらに評価・検討を行う必要があると考える。
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