平成14年度 宮城県における深夜業従事者の口腔保健調査


主任研究者宮城産業保健総合支援センター所長安田 恒人共同研究者宮城産業保健総合支援センター相談員山口 郁夫
宮城県歯科医師会会長吉田 直人
宮城県歯科医師会常務理事山本 壽一主任研究者
宮城産業保健総合支援センター所長甘糟 元
共同研究者宮城産業保健総合支援センター相談員伊東 市男
加美山茂利
小松 昭文
丹野 憲二

1 はじめに

平成11年5月の労働安全衛生法の改正により、深夜業に従事する労働者の健康管理の充実が取り込まれた。業種、職種、勤務形態などの違いで一概に論じられないが、生活習慣の変化は健康に影響する可能性が大であり、サーカディアンリズム(約1日の生理的な身体機能の周期的なリズム)に反して働く深夜業従事者の口腔にも何らかの影響があると思われる。特に不規則な睡眠、食事摂取時間に加え、口腔衛生習慣の変化は、口腔に悪影響を及ぼすことは必須で、調査の必要性がある。

 また、平成8年の歯周疾患の予防対策としての労働基準局長の通達(基発566号)後、年々歯科健診を実施する事業所が増えてきていたが、最近は経済的な影響からか、健診の実施は低迷している。そこで歯科健診の必要性を啓発するための口腔保健調査を行った。

 全国でも深夜業に従事する労働者を対象とした口腔保健調査はみていない。

 2 調査研究の方法

 (1)調査対象・方式

宮城県内の300社の中から深夜業務のある会社を選定し、その深夜業務従事者約1500人を対象に、勤務体制、勤務時間、口腔の自覚症状、刷掃回数、仕事の調子、心身の状態、仮眠の有無、睡眠時間等の質問紙によるアンケート調査をする。定期健康診断時に調査票を配布、終了時までに記入し、回収する。

 (2)調査時期

 平成14年10〜11月に定期健康診断を実施する日

3 調査結果と考察

(1)アンケート調査依頼した6事業所の対象者2354人のうち回答があったのが93.4%の2198人であった。20歳未満者が18歳4人、19歳7人の計11人いたが、20代に入れてもアンケートの分析上影響がないと考えられるので、20代としてまとめた。

 歯周病の発症率は年齢に比例すると考えられるので、回答者を年代別にした。回答者2198人のうち、年齢未記入17人を除いた2181人の内訳は、40代が一番多く647人で、つづいて50代521人、30代493人、20代458人、そして60代の62人であった。回答者の平均年齢は41歳であった。 男女別では、女性661人に対して、男性1525人で女性の2.3倍であった。

 アンケート回答者2198人の勤務形態は、日勤695人、夜間専門15人、交替勤務が一番多く1264人、変則210人であった。また、この質問に対する無回答者は14人であった。夜間専門、交替そして変則をまとめて1489人を夜勤として、日勤と対比して分析した。深夜業に従事している、いわゆる夜勤1489人の約1ヶ月間(4週間)の夜勤の平均稼働日数は9.8日で、そのうち夜間専門が13.0日、交替9.9日、変則8.9日であった。

(2)「自分の健康のために、日常生活で一番心がけているのは何ですか」の問で、1.食事 2.睡眠 3.運動 4.酒・タバコの制限 5その他の5項目からの選択で、最も多かった回答は、「睡眠」であった。次が「食事」で、続いて「運動」、「酒・タバコ」、「その他」と成っている。日勤と夜勤グループとの比較では、日勤の人達が一番心がけているのが「睡眠」ではなく「食事」であった。次が「睡眠」、「運動」、「酒・タバコ」、「その他」とつづいている。そして、夜勤の人達が一番心がけているのが「睡眠」で、つづいて「食事」となっている。

(3)「動く歯がありますか」の質問に対し、夜勤の人で「ある」と答えた人は286人(19.3%)、「ない」が1107人(74.7%)、「わかりません」が88人(5.9%)であった。また日勤の人で「ある」と答えた人は107人(15.4%)、「ない」が544人(78.5%)、「わかりません」が42人(6.1%)であった。これら夜勤と日勤の比率に、検定で有意差が認められた。

図1 歯の動揺

(4)「歯ぐきがはれることがありますか」の質問で、「ある」と回答した人は夜勤と日勤の比率の比較は「歯の動揺」と同じく有意差が認められた.夜勤の年代別では、「歯ぐきがはれることがある」人の割合が20代で最も少なく、102人(30.1%)で年代が上がるにつれ割合が多くなり、30代121人(37.8%)、40代182人(45.4%)、50代178人(48.8%)、60代24人(55.8%)であった。

図2 腫脹(夜勤)

「歯の動揺」、「歯ぐきのはれ」と同様に、「永久歯を抜いたことがありますか」の質問でも、「ある」と回答した人の割合が20代で最も少なく、年代が上がるにつれ割合が多かった。すべてχ2検定で有意差が認められた。

(5)各勤務別一日の歯磨きの平均回数を計算すると、日中勤務は1.88回、夜間勤務が2.00回、交替勤務が1.83回、変則勤務が2.02回であった。男女間では、夜勤と日勤共に男性より女性の方が「1日の歯磨き回数」が多かった。日勤の平均回数は男性1.7回に対し、女性が2.2回であった。夜勤では男性1.6回に対し、女性が2.5回であった。

(6)「歯や歯ぐきの不快感、痛みで仕事に支障をきたしたことがありますか」の質問で、わずかながら夜勤の人の方が仕事に支障をきたした人の割合が多かったが、検定では有意差が認められなかった。前述の結果から夜勤者の口腔状態が日勤の人より良くないにもかかわらず、差がなかったのは夜勤者のほうが歯科治療の機会がより多くあるからと推量される。

(7)「最近の心身の状態はどうですか」の重複回答可の質問で、「ストレスがたまっている」と回答した人は、日勤と夜勤がほとんど同じで、「睡眠不足」、「疲れやすい」、「体がだるい」、「意欲が出ない」では夜勤の人に回答者が多く、「特に疲れは感じない」、「快調」では日勤の人に回答者が多かった。χ2検定で有意差が認められ、日勤と夜勤との心身の状態に差があるといえる。

 4 おわりに

このたびの口腔調査は、口腔健診をせず、アンケートだけでの調査を行った。その理由の一つにアンケートだけでも深夜業に従事する人の口腔状態を把握できると考えたからである。それによって、最近低迷している事業所の歯科健診への足がかりとなる基礎資料ができ、啓発指導の一助となればと思っている。今回の調査結果、その目的は果たすことができ、今後の口腔保健活動に役立てたい。

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