平成13年度 産業分野における看護職に係る産業保健活動の実態調査


主任研究者
宮城産業保健総合支援センター所長
安田 恒人
共同研究者
宮城産業保健総合支援センター相談員
片岡 ゆみ



佐藤 洋



加美山茂利主任研究者
宮城産業保健総合支援センター所長甘糟 元
共同研究者宮城産業保健総合支援センター相談員伊東 市男
加美山茂利
小松 昭文
丹野 憲二

1 はじめに

宮城産業保健総合支援センター(以下「センター」と略す)では、平成12年度から産業保健活動に従事する保健師・看護師等(以下「産業看護職」と略す)を対象とした研修を実施し、産業看護職への支援の充実を図っているが、産業保健活動を推進するために、さらなる支援体制の充実・強化が望まれている。しかし、宮城県では産業保健活動の実践の担い手である産業看護職については、その実態は明らかではない。そこで、宮城県における産業看護職の活動状況等を把握するために実態調査を行なった。

2 対象と方法

(1)事業所に対する調査(調査1)

 県内の従業員数50人以上の事業所に自記式調査票を郵 送し回収した。調査対象数は、2,398事業所で、調査期間は平成13年9月7日から9月30日、回答数728、回収率30.4%だった。

 2)看護職に対する調査(調査2)

 産業看護職に自記式調査票を郵送し回収した。調査対象数は342人(調査1で把握した131事業所の看護職294人にセンターで既に把握していた40事業所の看護職48人を加えた、計171事業所の看護職342人)で、調査期間は平成13年11月28日から12月31日、回答数154、有効回答数144、回収率42.1%だった。

3 結果

(1) 事業所に対する調査(調査1)

 事業場の業種で多いのは卸売業・小売業15%、次いで建設業だった。労働者の規模で多いのは100〜299人が35%、次いで50〜99人が33%だった。50人未満は18%で、100人未満の事業所が全体の約半数だった。

 看護職がいる事業所は131(18%)、そのうち常勤の看護職のいる事業所は109(15%)だった。常勤の看護職の最大人数は、31人で健診機関だった。一般の事業所での常勤の看護職の最大人数は7人だった。常勤の看護職の人数が1人の事業所は73%、2人の事業所15%、2人以下の事業所は常勤の看護職のいる事業所全体の90%近かった。常勤の看護職の合計人数は212人、非常勤は82人で、産業看護職の総数は294人だった。

看護職のいる事業所で看護職に期待することで多いのは健康相談と健康診断の実施・健康診断後の保健指導だった。少ないのは予算案作成への関与、企業内関係部署との連絡調整および作業により健康を阻害しないための働きかけだった。

 (2)看護職に対する調査(調査2)

年齢幅は24歳〜75歳、40代が最も多く40%、50代26%、30代22%だった。所持資格は、看護師が7割を超え最も多く、保健師資格所持者は約3割だった。産業看護経験年数は、5年未満および5年以上10年未満が約3割で最も多かった。10年未満が全体の7割を占めた。

 勤務場所は、健康管理室・健康相談室が35%で最も多く、次いで診療所・医務室だった。常勤の健康管理スタッフで看護職以外で多い職種では、衛生管理者が5割を超え、事務職4割、専属産業医3割の順だった。

 現在、力を入れている業務内容では、健康相談が54%で最も多く、次いで疾病管理および記録・報告が各々48%、健康診断の実施・健康診断後の保健指導および救急処置が各々42%だった。作業管理に関する働きかけ、作業環境管理に関する働きかけ、予算案作成への関与、企業内連絡調整は少なかった。特に力を入れている業務内容では、健康診断の実施・健康診断後の保健指導が最も多く48%、次いで健康相談22%、健康教育14%で、これ以外の業務内容は極端に少なかった。今後、力を入れたい業務内容は、健康診断の実施・健康診断後の保健指導、健康教育、健康相談の3つは50%を越えていた。これらは、現在力を入れて行っている業務内容と同じである。健康づくり事業・THPは半数に近かった。

 社員に期待されていると思われる業務内容は、健康診断の実施・健康診断後の保健指導と健康相談は6割を越え、健康教育は4割近かった。(表1)

表1 産業看護職業務内容

 産業看護活動の問題点・阻害要因は、健康管理スタッフの人材が十分得られないと知識・経験の不足が約4割と多く、次いで組織上の問題が約3割だった。産業保健活動を実施する際の相談先は、産業医が6割、課長・係長など専門職でない上司が半数を超え、同じ事業所内の看護職と関係機関は約4割だった。相談する関係機関は、センターと健康診断機関が5割を越えた。資質向上したい内容は、効果的な健康教育の進め方が6割で最も多く、メンタルヘルス、生活習慣病、事後措置・事後フォロー、カウンセリングは約半数だった。


4 考察

産業看護職は40歳以上が全体の7割に及んだが、産業看護経験年数は10年未満が全体の6割を占めており、年齢に比べて産業看護経験年数が少ないことがわかった。保健師の資格を持つ者は3割程度であり、保健活動に必要な基本的な教育を受ける機会のないままに産業保健活動に従事している看護職の多いことがわかった。このことから、産業看護職への卒後教育の必要性が示唆された。

 産業看護職はそのほとんどが、健康管理室、診療所といった勤務場所に勤務し、看護職の配置人員も1〜2名程度と健康管理体制の不十分さも明らかになった。本来保健活動は、多職種との連携により展開されるが、今回の調査では、産業看護職は主に産業医と職場の衛生管理者の協力によって産業保健活動を行なっている現状がわかった。産業保健活動を行なうためには、産業保健体制の整備が必要である。同じ活動を行なう看護職同士の相談・助言の体制や産業保健に関わる専門職の協力・支援が必要であろう。

 産業看護業務の特徴として、健康診断の実施・健康診断後の保健指導や健康相談のような個人を対象とする活動が中心に行われていることがわかった。これらの個人を対象とした個別性や専門性の高い指導・援助は看護職のみでは充実しにくく、他の専門職や関係機関の連携が重要となる。一方、個人を対象として個別の看護活動を行うことに比べて、働く人々や職場という視点での活動が不十分なように思われる。個々人では解決できない健康問題や職場の他の人びとに共通している健康問題の場合は、職場集団として組織的な解決を図る必要がある。そのためには健康管理に関する企画・運営への参画や企業内連絡調整に力を入れて取り組む必要があろう。

 これらのことから、産業看護職への卒後教育としての研修の充実、実際の活動に即した継続的な相談・助言の実施、産業看護職のネットワークの構築の3つが今後の産業保健推進センターの課題といえよう。

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