平成11年度 宮城県下職場における口腔保健の取組状況と歯周疾患に関する研究


主任研究者
宮城産業保健推進センター所長
安田 恒人
共同研究者
宮城産業保健推進センター相談員
山口 郁夫


若狭 一夫


佐藤 祥子主任研究者
宮城産業保健総合支援センター所長甘糟 元
共同研究者宮城産業保健総合支援センター相談員伊東 市男
加美山茂利
小松 昭文
佐藤 洋
丹野 憲二
若狭 一夫

1 はじめに

 THPに口腔保健が取り上げられていように、口腔保健と健康の保持増進とは密接な関係があるとされている。また平成8年の労働基準局長の通達に「歯周疾患の予防対策として事業所の健診の啓発指導に努めること」とあるように、歯科健診をメーンに口腔保健活動を実施する事業所が増えてきている。しかしながら、県内の職場の取組状況と勤労者の歯周疾患の実態は全く明らかにされていない。

 職場における口腔保健向上のための基本データを把握し、解析システムを確立する必要から、アンケート調査および口腔健診をおこなった。歯周疾患の診査は、近年処置ニーズのデータを収集するためのCPITN(Community Periodontal Index of Treatment Needs)によるのが多いが、今回の調査では受診者の治療ニーズが目的でなかったこと、キャリブレーション(標準化調整)と時間的な問題から視診と潜血反応試験を採用した。それに加えて、咬合力の測定を実施し、「歯を食いしばって頑張る」と言われているように、歯の噛み合わせや咀嚼が仕事のモラールにどのように関わっているか分析した。

2 調査研究の方法

(1)主要事業所に対するアンケート調査

宮城県内の主要事業所1336社を対象に、調査の依頼文書および調査書を郵送し、FAXによる返送とした。アンケート調査書は、平成8年に広島産業保健推進センターがおこなった調査と比較できるよう参照した。調査項目数は広島より3項目少ない15項目とし、その内容は【1】事業所の属性、【2】センターの利用状況、【3】歯科健診の実施状況、【4】歯科保健教育等の実施状況とした。

(2) 口腔診査および歯科保健アンケート調査

 県下3事業所902人の口腔診査をおこなった。診査項目は、【1】健全歯数、【2】う歯数(処置歯数・未処置歯数)、【3】喪失歯数、【4】歯周疾患(歯石・歯肉炎・歯周炎)の有無、【5】顎関節(クリッキング・関節痛)の有無、【6】咬耗の程度、【7】舌・粘膜の異常の有無、【8】唾液潜血試験、【9】咬合力、【10】その他とした。またアンケート調査票は問1から問19までの質問で、口腔診査時に記入してもらった。

3 調査結果と考察

宮城県内の主要事業所に対するアンケート調査と事 業所の勤労者901人の口腔診査及びアンケート調査を行った結果を要約すると次の通りである。

(1)事業所のアンケート調査は、平成8年の広島産業保健推進センターが行った調査と比較すると、事業所の数は少ないけれど、同じような結果であった。「貴事業所の業務に塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りんなどを発散する場所における業務がありますか」という問いに対して「はい」と答えた事業所は63社であった。その63事業所の38%の24社で毎年事業所の歯科健診を実施していたが、残り63%の39社では、安衛則第48条で、酸取扱い業務に従事する労働者に対しては、定期に、歯科医師による健康診断を行われなければならないと法で定められているが、なぜか歯科健診は実施されていなかった。

(2)産業保健推進センターを知らないと答えた事業所は9%で、大方は知られているが、「利用したことがない」が73%と多数を占めており、今後の利用状況を期待する。

(3)歯科医師による講習会、歯科衛生士による指導、保健婦による歯科保健教育の実施は、どれも80%以上の事業所で行われておらず、歯科疾患があるにもかかわらず口腔保健に対する関心は薄いようである。

(4)受診者の平均喪失歯数は、全国の歯科疾患実態調査と比較すると、50歳代までは、ほとんど全国レベルなのに対して、60歳以上の1人平均喪失歯数6.7本は、全国より3本以上少ない。また平均咬合力も50歳代より高い数値を示した。「歯を食いしばって頑張る」と良く言われているが、仕事でいつも歯を食いしばることは多くないにしろ、定年の年齢を過ぎても第一線で仕事がやれるのは、このように口腔状態、特に咬合、咀嚼機能の良いことがその一因と考えられる。

(5)よく噛んで食べている人は仕事が「快調」と答えた人の割合が最も多く、次が「まあまあ」、「普通」と続き、「あまり良くない」「不調」と答えた人はよく噛んでいないことが分かった。(図1)

図1 咀嚼と仕事の状態

図1 咀嚼と仕事の状態
また最近の心身の状態も、よく噛んで食べる人が「快調」と答えた人に一番多く、次が「特に疲れは感じない」であった。(図2)このことからも如何によく噛むことが大切であるかと言うことが証明される。

図2 咀嚼と心身の状態

図2 咀嚼と心身の状態
(7)毎日朝食をとる人とそうでない人も、よく噛んで食べるか否かと同じように、毎日朝食をとる人は、仕事が良好で、心身の状態も「快調」が一番で、次が「特に疲れは感じない」であった。すべてχ2検定で有意差があり、朝食やよく噛むことが仕事や健康に良いと言える。(図3)

図3 朝食と心身の状態
図3 朝食と心身の状態

(8)睡眠も同様、心身の「快調」、「疲れない」人に平均睡眠時間が多かった。ブレスローの健康定理が当てはまると言える。

4 おわりに

このたびの口腔健診調査は、当初1500人ほどの予定であったが、時間的な制約で901人になってしまった。特に女性の受診者が少なく、性差が影響して偏った結果が出るのでないかとデータ分析に気をつかいました。この結果、咀嚼が心身だけでなく、仕事の面でも如何に大切であるかが分かった。

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