平成9年度 職場のメンタルヘルスと生活習慣の関連について


主任研究者宮城産業保健総合支援センター所長安田 恒人共同研究者宮城産業保健総合支援センター相談員加美山茂利同小松 昭文同佐藤 吉洋阿部労働衛生コンサルタント事務所阿部 裕一主任研究者宮城産業保健総合支援センター所長甘糟 元
共同研究者宮城産業保健総合支援センター相談員伊東 市男
加美山茂利
小松 昭文
佐藤 洋
丹野 憲二
若狭 一夫

1 はじめに

平成元年の労働安全衛生法の改正により、有機溶剤特殊健康診断に尿中代謝物の検査が導入され、作業環境とそこで働く労働者の溶剤暴露の相関が明らかにされるようになってきた。しかし、宮城県内全域に亘ってこのような調査は行われておらず、その実態は明らかではない。県内における有機溶剤取扱事業場に対し、アンケート調査によって溶剤使用の実態及び取扱作業者の健康管理の状況を把握するとともに、われわれの調査目的を理解し協力を申し出た事業場において、個人暴露を含む詳細な作業環境測定を行うとともに、作業者の尿中代謝物を測定した。この結果、有機溶剤取扱作業場の実態をかなり明らかにすることができた。

2 調査研究方法

宮城県内に所在する労働基準監督署、労働基準協会、作業環境測定機関、健康診断機関等の協力を得て、県内の有機溶剤取扱事業場828社をリストアップし、これらの事業場にアンケートを郵送し、平成9年12月1日現在での状況を記入、平成10年1月31日までの返送を依頼した。発送数828通に対し、返送数は271通、内32通は調査時点で有機溶剤を使用していないとのことで、有効回答数は239通、有効回答率は28.9%であった。

 アンケート調査票の内容は【1】事業場の属性、【2】有機溶剤取扱い職場の状況、【3】有機溶剤作業管理の状況、【4】有機溶剤取扱作業者の管理の状況、【5】有機溶剤作業環境測定及び取扱作業者の特殊健康診断等に関する希望の有無、及び【6】有機溶剤取扱作業の管理に関する要望の自由な記入、からなっていた。

 上記の調査票で有機溶剤取扱作業場の作業環境測定及び取扱作業者の健康診断を希望した事業場のうち、本調査研究の内容に対し理解を示し協力を申し出た1事業場において、作業環境測定と作業者の尿中代謝物の測定を行った。作業環境測定は同事業場内の4作業場所において有機則及び作業環境測定基準による場の測定と平行し、ガスバッジ設置による環境平均濃度測定及びガスバッジによる作業者個人暴露濃度の測定を行った。そして、これらの各測定成績を作業前後に実施した尿中代謝物の測定成績と対比検討した。個人暴露濃度及び尿中代謝物の測定を行った作業者は7名であった。

3 調査研究成績及び考察

1)アンケート調査成績

回答した事業場の業種で最も多いのは「電気機械器具・金属製品製造業」で23.6%を占めていた。次いで「その他」が18.4%、「その他の製造業」が14.2%とつづいた。事業場の労働者規模では「10〜29人」が26.8%、次いで「1〜9人」が22.2%と典型的な小・零細企業であったが、「1.000人以上」も2.5%を占めていた。

 有機溶剤取扱作業に従事している労働者数も「1〜9人」が67.4%と最も多く、次いで「10〜29人」が18.4%で大部分は30人未満であった。

 有機溶剤中毒予防規則の周知度は高く、「今回はじめて知った」のは4.1%にすぎなかった。有機溶剤で使用量の多いのはトルエン、メチルエチルケトン、メタノールであり、有機則一覧表に記載のない有機溶剤を使用している事業場も11.3%にみられた。

 有機溶剤作業主任者は75.3%で選任されており、取扱作業環境を「定期的又は今までに」測定した事業場は72.4%であった。作業環境測定を外部の作業環境測定士が実施しているのは88.6%に及び、自社の作業環境測定士が測定しているのは3.4%しかなかった。測定結果について評価をしているのは74%であり、実施した作業ヵ所のうち86.6%が管理区分1、8.8%が2、0.26%が3であった。作業環境の改善が必要だとする事業場中80%は資金的な理由で改善していないといい、技術的理由によるものは20%しかなかった。防毒マスク等の呼吸用保護具を備付けているのは68.2%に及んでいるが、そのほとんどで使用の指導が行われていた。

 有機溶剤作業者に特殊健康診断を受けさせているのは92.9%に及び、総受診者4,817名中何らかの所見ありとされたのは1.7%であった。これらの有所見者に対する事後措置として38.1%が産業医が対応しており、健診機関、医療機関での受診をすすめたのは44.4%であった。作業環境や作業方法の改善を行ったのは14.3%に過ぎなかった。有機溶剤に関する労働衛生教育を実施しているのは67.8%あり、自社で対応しているのは48.4%であり、他は外部の医師又は労働衛生コンサルタント等に依頼していた。有機溶剤の成分や有害性に関する情報を容器やラベルの説明書から得ているとするのは49.1%に及び、メーカーから安全データシートを取り寄せたり、学術文献等の調査、官庁等への問合せで得ているのは50.1%と両者は相半ばしていた。

2)作業環境測定と有機溶剤暴露の実態

アンケート調査で有機溶剤作業環境測定と作業者の健康調査を申し出たA社の4作業場所とそこに働く7名の作業者について作業環境調査及び尿中代謝物測定による生物学的モニタリングを行った。これらの作業場では電気部品であるガスケット製品へのシール剤の自動注入と、そのシンナーどぶ漬け脱脂洗浄と乾燥処理が行われていた。

 これらの作業室での有機則による作業環境測定はトルエンと酢酸エチルを対象物質とし、A測定及びB測定を行った。この結果、A測定では4作業室とも管理区分1であったが、B測定では1作業室で管理区分2となったため、総合判定では第1管理区分3室、第2管理区分1室であった。

 A測定の際の各測定点におけるトルエン濃度と同じ測定点に作業時間を通じて設置したガスバッジによるトルエン濃度との相関は4作業室ともに比較的小さく、低濃度作業環境濃度の評価はA測定における1回だけの測定では困難なことが知られた。

 作業前後の2回に採尿し、測定を行った尿中馬尿酸量は尿中クレアチニン1g当たりで示された。7名中5名は作業後に増量したが、2名は作業後の増量はみられなかった。馬尿酸の増量値とB測定値及びガスバッチ法による個人暴露量との相関をみたが、前者ではr=0.431(P>0.1)、後者ではr=0.652(P<0.05)と、後者での相関が有意であった。

4 おわりに

アンケート調査による宮城県内の有機溶剤作業場の衛生管理の実態を明らかにするとともに、そのなかで作業環境調査に協力を申し出た事業場において、作業環境測定と個人暴露調査及び尿中代謝物の測定を行い、有機溶剤暴露の実態を知ることができた。これらの成績を今後の有機溶剤作業管理に生かすことは本推進センターの課題の一つと考える。

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