平成12年度 宮城県下企業におけるメンタルヘルス対策の実態について
主任研究者宮城産業保健総合支援センター所長安田 恒人共同研究者宮城産業保健総合支援センター相談員加美山茂利 同若狭 一夫 同佐藤 祥子主任研究者 | 宮城産業保健総合支援センター所長 | 甘糟 元 |
共同研究者 | 宮城産業保健総合支援センター相談員 | 伊東 市男 |
同 | 加美山茂利 | |
同 | 小松 昭文 | |
同 | 佐藤 洋 | |
同 | 丹野 憲二 | |
同 | 若狭 一夫 |
1 はじめに
近年は、日本的な経済システムの急激な変革や産業構造の変化、技術革新の進展、加えて個人主義傾向など、厳しい社会状況の中で労働者は自分の仕事や職場生活に強い不安や悩みを持ちながら勤労しているのが現実であり、個人生活においても、少子高齢化による経済面や老後の生活、介護など様々な問題を抱えているなど、心理社会的ストレスが多種多様となり、まさにストレス時代であるといっても過言であるまい。
今回、私達は「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針(平成12年8月労働省策定)」を普及活用するために、「宮城県下におけるメンタルヘルス対策の実態を知る」ということで、事業場、労働者、産業医、精神科医を対象にアンケート調査を行った。
2 対象と方法
宮城県内の事業場(従業員100名以上)923社、宮城県内の日本医師会認定産業医700名、宮城県内の精神科医57名、宮城県内の事業所に勤務している勤労者900名を対象に別添に示した「職場のメンタルへルス問題の実態調査」を送付し記入を依頼した。回答は、無記名とし、平成12年9月1日現在で記入し、同月末日までに郵送で返送を依頼した。総依頼数2,580件のうち回収は1136件で、回収率は44.03%であった。
各部門別でみると、事業所関係は、923件に依頼し、回答は340名で、回答率は36.8%である。産業医は、700名中回答は264名で、回答率は37.7%である。精神科医は、57名中回答は30名で、回答率は52.6%である。勤労者は、900名中回答は502名で、回答率は55.8%である。
3 調査結果
1)事業場においては、衛生管理体制として、衛生管理者を選任しているところが高い数値をしめしているが、専属産業医を置いているところは少なく、産業医がいないところもみられた。労働者がなんらかの心の問題をおこした時その対応にあたる職種としては、直属の上司、人事・労務管理者、看護婦・保健婦、産業医となっている。
労働者が心の問題を持った場合には、産業医に対してメンタルへルスへのかかわりを求めているが、精神科治療機関への紹介をしてもらうためと、労働者の職場復帰に関する時関与してもらっているというのが現状のようである。また、事業場側として精神科医を専属産業医として確保したいとするところはときわめて少なく、紹介先としては確保しておきたいとは考えているにとどまっている。このことから、メンタルヘルスに関しては関心は高かく問題意識はあるものの、専門機関にまかせる方向であることが伺われる。
心の問題への取り組み状況は、セルフケアが最も多く、具体策としては,スポーツ・レクリエーションの実施、社内報・パンフレット等による啓発教育、相談(カウンセリング)の実施があげられ、推進への対策としても労働者が自主的な相談をしやすい体制を整えるとともに、職場環境等の改善に力を入れているところが多いということから、事業場として労働者に対して心の健康へ気配りをしていることはわかる。
(2)労働者においては、職場環境についてはまあまあ快適という人が回答者の半数である反面、快適とは思われないといった人も3割強であるということは必ずしもよい環境で仕事をしている人が多いとはいえないと思われる。このことは、仕事面で精神・神経的に疲れるかとの問いに、「とても疲れる」「やや疲れる」と回答している人が8割以上であることからもわかり、多数の労働者が心の問題で悩む事になりかねない要因を持っているということにも繋がるといえる。職場のストレスの中で一番多いのは、人間関係で特に上司とのストレスが3割以上であり、メンタルヘルスを考えるうえでの重要なポイントのひとつになると考えられる。心配事や悩み事においては、経済的問題や子どもに関することをあげている人が多く、現代の状況を反映しているといえよう。
職場からのメンタルヘルス対策については、スポーツ・レクリエーションの実施や社内報・パンフレット等による啓発教育といったことでの認識はなされているが、相談(カウンセリング)の実施や人事・労務担当者・衛生管理者に対する研修などがメンタルヘルス対策として実施されているといった認識は低いといえる。
(3)産業医についてみると、労働者の心の健康問題に関係したことのある人は4割強であった。しかし、「担当している職場において心の問題を持った労働者がいるかどうか」との問いに「わからない」という人が3割弱であることや、「心の健康問題で通院しながら職場に出ている労働者がいるかどうか」との問いに対しても「わからない」という人が3割弱など、心の健康まで深く関わりを持っている産業医は多くないというのが現状である。さらに、心の健康に問題がある人がいた場合には、主に、治療機関への紹介であり、職場復帰に関しても、外部の専門医にまかせているとの回答が多いが、最終的な職場復帰の判断には関与していることは産業医の立場上当然のことと思われた。精神科医に対しては、「紹介先として確保したい」「適宜判断すればよい」との回答が多くみられ、精神疾患患者の早期発見の難しさや職場復帰のための困難さ、治療への持っていき方の難しさをあげていながら、積極的に精神科専門医を産業医として必要だといった方向へ考えている人は少ない。
(4)精神科医は職場のメンタルへルスについてどの程度関心があるのかをみると、8割の人が「関心がある」と回答しているが、積極的に産業医になろうとする人が少ないのが現状のようである。労働者が心の健康に問題があるとして受診した場合、職場との調整や職場復帰の問題など主治医である精神科医と直接かかわる立場の人は人事・労務担当者や看護婦・保健婦であり、産業医がかかわることはほとんどなく、精神科医と産業医との連携の悪さが伺われた。さらに、職場復帰にあたっての診断書作成においても、精神科医と本人は相談しているが産業医をふくめて事業場の人とは相談しておらず、心の健康問題には守秘義務が第一であるということが守られていることがわかるが、再発をふくめての職場復帰を考えた場合これでよいのかといった疑問も残る。
精神科を専門にしていない産業医に対して、精神疾患に関しては専門医にほとんどお任せという産業医が多いとみている人が半数であるものの、精神科医自身も、職場復帰に関するケースマネジメントは、通院する精神科の主治医もしくはケースワーカーか臨床心理士がすることが望ましいと考えているようである。
4 まとめ
この調査結果から、事業場、労働者、産業医、精神科医ともにそれぞれが心の健康問題に対しては関心がありながらどこか微妙にかみあわないことが感じられ、「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を普及活用するためにも、4者の認識のズレを調整していく役割が私達産業保健推進センターに与えられた今後の課題であろうと思われた。
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